社会学者の研究メモ

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社会学

(続)『アジアの家族とジェンダー』

今回は第II部の「中国・台湾」のサマリ。第4章 中国の育児 1949年の社会主義革命以前は、都市部においては専業主婦が支配的だった。が、革命後は共働きが一般化。 1978年の改革開放以降、女性労働力率が減少に転じた。裕福な層で専業主婦が増える兆しがある…

『アジアの家族とジェンダー』

アジアの家族とジェンダー (双書ジェンダー分析)作者: 落合恵美子,山根真理,宮坂靖子出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2007/02/19メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (13件) を見る必読文献だと思うが、なぜだか今まで読む機会がなかった…

「排外主義」についての文献とデータ

日本に帰国して約3週間、遅ればせながらシノドス・ジャーナル(および朝日web ronza)に掲載していただいた記事の文献情報を掲載する。排外主義の規定要因についての研究にはそこそこの蓄積があるが、国際比較可能なデータを使用した経験的分析の論文のみご…

低成長経済化における福祉国家戦略

以前取り上げた、 Esping-Andersen, Gosta, 1996, "After the Golden Age? Welfare State Dilemma in a Global Economy" in Gosta Esping-Andersen (ed.), Welfare States in Transition. Sage Publications. だが、かなり断片的なまとめになっていたので、…

福祉レジームとジェンダー:文献情報

スウェーデンで社会保障を研究されているid:dojinさんからSynodos Blogの拙稿にいただいたコメント中に「文献情報があれば」という要望があったので、改めてここで一部を紹介する。時系列的に並べておくので、参考になれば幸いである。さしあたりの出発点は…

なぜ社会学の格差研究はややこしいのか(その二)

前回説明したように階層とは価値付けされた資源へのアクセスの格差であり、あくまで人々による資源の価値付けに依存した社会構造の記述である。したがって多くの人に共有された価値付けがない資源については、そういった資源へのアクセス格差を議論すること…

なぜ社会学の格差研究はややこしいのか(その一)

院生に勧められて以下の論文を読んだ。専門分野(家族)のジャーナルと違って『社会学評論』は少々見落としがちになるので、こういう機会は助けになる。 吉川徹,2003,「計量的モノグラフと数理:計量社会学の距離」『社会学評論』53(4):485-498. 内容自体は…

社会階層と社会的ネットワークの多様性

(注意:論文内容に関する判断は、ぜひ実際の論文をお読みになった上でお願いします。) 大和礼子, 2000, "社会階層と社会的ネットワーク"再考, 『社会学評論』51(2), 235-250. 家族と社会的ネットワークに興味がある研究者なら読むべき重要な論文だと思った…

「幼稚園と学力の関係」における相関関係と因果関係

統計データの解釈について、しばしば指摘される注意事項が「相関関係と因果関係を混同するな」というものである。今回はこの警句について、「幼稚園出身の子の正答率、高い傾向 全国学力調査」(asahi.com)という記事を題材にして少々詳しく説明してみよう。…

教育社会学論文三点

最近『教育社会学研究』の論文をざーっと読んでいるので、いくつか論文のメモを。 広田照幸, 2007, 「教育社会学はいかに格差-不平等と闘えるのか?」『教育社会学研究』80: 7-22. この論文は特集テーマの一部。内容をまとめるのが難しいので、少々恣意的に…

社会学にとって理論とは何か

「理論と実証」について考えるときに、しばしば忘れられてしまうのは、理論と実証以前に、その両者に意味を与えるもっと大事なことがある、ということです。それは「問題関心」です。そして多くの実証研究は、この問題関心から出発しています。階層研究であ…

福祉レジームと剥奪

Rudd Muffels and Didier Fouarge, 2004, "The Role of European Welfare States in Explaining Resources Deprivation". Social Indicators Research 68: 299-330. ちょっと一言ではまとめにく内容でしたが、簡単に言えば個人の(相対的)剥奪を個々の属性…

構造と制度

教科書ネタです。研究指導していると、たまに基本用語を再確認する必要が出てくるときがあります。制度と(社会)構造という言葉は研究者によって微妙に使い方が異なるにも関わらず、社会科学系の研究ではしばしばクリティカルな位置を占めていることもあり…

福祉切り詰めの政治

政治学よりの話ですが、関連分野なので備忘録的に簡単なサマリ。 Paul Pierson, 1996, "The New Politics of the Welfare State". World Politics, 45: 143-179. 一言でいえば、「福祉の切り詰め(welfare retrenchment)がいまいち進まないのは、政治家が福祉…

計量分析におけるミクロとマクロ

このエントリは関心のない人は読まない方がいいかもしれません。(頭が痛くなるわりにそれほど重要な話でもないので。)計量分析の世界では、しばしば「性別」や「学歴」が個人レベル変数で、たとえば国の特徴を表す変数(「社会支出のGDP比」など)がマクロ…

女性の雇用に関する比較研究

短い文献紹介です。 Tanja van der Lippe and Liset van Dijk, 2002, "Comparative Research on Women's Employment", Annual Review of Sociology, 28:221-41. 女性の雇用に関するここ25年ほどの比較研究についての、レビュー論文です。よく整理されている…

グローバル経済下における福祉国家のジレンマ(続き)

前回短かったので補足です。前掲論文のなかの「過去10年における福祉国家の適応」というセクションには、「The Scandinavian route」「The neo-liberal route」「The labor reduction route」という三つのサブセクションがあり、低成長期におけるそれぞれの…

グローバル経済下における福祉国家のジレンマ

少々あいだが空きましたが、前々回の続きで(ごくごく簡単な)文献紹介です。 Esping-Andersen, Gosta, 1996, "After the Golden Age? Welfare State Dilemma in a Global Economy" in Gosta Esping-Andersen (ed.), Welfare States in Transition. Sage Pub…

各種ジェンダー関連指標のまとめ

(文献紹介は一回スキップします。)国際マイクロデータの普及に伴い、徐々に国別のジェンダー平等を測るための総合指標(composite index)が利用される機会も増えているように思います。総合指標はその算出方法を考慮しないと十分に生かせないところもありま…

福祉国家のパラドックス

以前書きましたとおり、αシノドスの文章で参照しつつも文献表示をしなかった論文について、この場を借りて文献紹介しようと思います。(全部で5個ほどを予定しています。)今回とりあげるのは以下の論文です。(あくまで短い紹介なので、正確な理解のために…

International Sociological Association (Sweden)

2010国際社会学会の報告日時が決まって、連絡がきました。7月12日(木)、15:30〜17:30です。「おかしいな、6月じゃなかったかな..」と思ってウェブのカレンダーをみてみると、「ISAは6月11日から」と書いていた。もちろんこれは私の勘違いでした。あぶな〜...…

カナダの移民と家族政策

カナダの今日のニュース。コペンハーゲン気候サミット、アフガンでのカナダ兵の捕虜虐待見過ごし問題、タイガー・ウッズの不倫とゴルフ活動無期限中止、バンクーバーオリンピック、などなど...とならんで、移民介護労働者の受け入れプログラムの変更のニュー…

Google Motion Chartで出生率の変化をみてみる

Google Spreadsheetでは、Motion Chartという機能が使えます。これがかなり楽しい。試しにWorld Bank (World Development Index)のデータを使って、一時期話題になった出生率(TFR)と女性労働力参加率(FLR)の関係を「動くチャート」にしてみました。(Google…

カナダの格差問題

今日はトロント大学社会学部で階層論を研究している教授と話をする機会がありました。いろいろ話を聞いてきたので、メモ。会話調で再構成しています。(多少脚色あり。話の把握に間違いもあるかもしれないので、教授の名前は伏せておきます。)※※※私「日本の…

既得権の社会学

再び教科書のための頭の整理のメモです。最近は社会学でも「既得権」という考え方に反応する人が増えているような気がします。これも先日のエントリでちょっと触れた「社会学者の構造改革派バイアス」の表れにみえなくもないです。が、社会学を救うというわ…

「意図せざる結果」の研究

「なぜ社会学には(そして主に社会学において)権力という概念があるのか」とか書いたら今度は社会学者がコメントを書いてくれるかな?とか思いましたが、悪趣味なのでやめときます:-)最近いまさならながらの「ミクロ-マクロ問題」(社会学にはそういうのが…

なぜ経済学には権力という概念がないか

(今回の議論はたぶん、かなり穴があります。ご承知おきを。...ってブログの記事はそもそもそういうものか。)経済学に権力という概念が全くないわけではないと思うのですが、社会学ほどは目立たない概念でしょう。なぜでしょうか。このことは、権力の定義を…

論文の書き方:FAQ

なんだかアクセスが多くてびっくりですが、それだけいろんな人が研究の方法に関心を持っているということでしょう。昨日、こちらの大学院で研究している日本出身の院生の方とお話をする機会がありました。課程留学された動機を伺ったところ、少なくとも当時…

(学生向け)面白い論文の書き方(その二)

おかげさまで前回のエントリは好評でした(2100ほどアクセスがありました)。引き続き、「ひと味違う論文作成方法」を試みます。 データ収集 さて、検証の目的から確認しておきましょう。検証の目的は、データを集めることではありません。論文を読む人(や…

(学生向け)面白い論文の書き方(その一)

今回も教科書ネタ。学生の論文には、読んでいて面白いものと、苦痛なもの指導しがいのあるものがあります。後者のような論文を書く学生は、論文についてこう考えていることが多いです。 興味のあることを見つけて、それについて文献を読み、それをまとめて、…