社会学者の研究メモ

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中国で夏季集中講義

ひさびさの更新になります。7/8から7/15まで、中国の北京の大学で夏期集中講座を担当してきました。なかなかない経験だと思うので、備忘録代わりに記事を書いておきます。

講義を行ったのは大学は北京林業大学という大学で、北京の西北にある、たくさんの大学(北京大学清華大学など)が集中している地区にあります。林業大学という名称ですが、理系文系の学科を備える総合大学です(wikipediaの記事)。私が担当したのは、「外語学院」(「学院」は大雑把に言えば日本の学部みたいなもの)の授業。

キャンパスは北京大学やお隣の精華大学と違って「広大」というほどではないですが、建物の一部はかなり立派なものがあり、林業大学というだけあって緑豊かです。

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キャンパス

特に、教員研究室が入っているビルはすごかった。私の京都の研究室なんて、窓枠が錆びついてて開けるのに苦労するくらいなのに..。地下には居心地良いカフェがあって、コーヒー(こっちではレギュラーは「アメリカン」という)が美味しい。韓国資本の店みたい。

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研究棟
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研究棟のカフェ

夏期集中講座(サマーセッション)は、世界各国の研究者を招聘して一定期間で行われます。30人ほどいたはず。多くは理系の研究者でした。出身国はアメリカ、ドイツ、フランスが比較的多く、アジアからもちらほら。台湾、韓国、日本はそれぞれひとりずつ。日本出身は私だけ。

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サマーセッション始業式

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サマーセッション始業式集合写真

ちなみに報酬は高め。いろんな国から研究者を招聘するからでしょうか。詳しくは書きませんが、同じ時間担当しても、日本の集中講義とは比べ物になりません。できる人は、そら中国行くわ...とか思ってしまいました。しかし支払いは人民元なので、もらったあと多少面倒かも。源泉徴収後の金額が振り込まれます。

宿泊は、大学近くのホテル。そこから教室まで歩いて10分程度。途中から北京はかなり暑くなって(摂氏30〜35)、帽子必須です。日傘は、男性が使うとかなり目立ってしまうらしい。食事は、朝はホテルの朝食ビュッフェ。スープに入った水餃子が美味でございました。パクチーたくさん入れて毎日食べてました。中国人(らしき人たち)は油条食べてましたが...。

さて、授業は基本的に日本語。そういう趣旨の授業なのです。半分は日本語専攻の学生ですが、日本語を学ぶ他学科の学生(植物学や土壌学などの理系の学生や、心理学を専攻する学生)もたくさんいました。受講生は20名くらい。クラスサイズとしては、ちょうどよかったです。

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クラス

授業内容ですが、「日本社会の仕事と家族」というテーマで、近代家族論からはじめて、東アジアの圧縮近代論・半圧縮近代論、人口変動と家族経験の変化、福祉ミックス・福祉レジーム論、グローバルケアチェイン、日本的雇用、内部労働市場、最近の働き方改革...というふうに進みました。学部にしてはそこそこアドバンストな内容でしたが、なんとかついてきてたかな、という手応えはありました。

授業の最初に、「日本の家族のイメージといえば?」という質問を無茶振りしてみたのですが、学生の答えはこんなかんじ。「個人化している」「そもそも結婚しない(したくない)」「主婦が多い」「最近は老親扶養はあまりしない」「二世代家族が多い」。わりと当たってるな、という印象を持ちました。

ところで、中国の大学の授業は1コマ45分です。たいていは一回で2コマ使うらしいのですが。ですので、ひとつのコースで32コマ。これを6日に分けてやりました。大学の規則で、1日に6コマまでしかできないので、月〜金で30コマ。残り2コマは、次週の月曜日。

かなり長丁場なので、あいだあいだに学生の自主発表をいれました。最初は、5つのグループに分けて、テーマは何でも良いので日本のことについて発表してもらいました。そこで学生が持ってきたのは、「ドラマ」「Jポップ」「茶道」「アニメ」、そして「宝塚」。やっぱり学生の日本に対する関心は、圧倒的に文化ですね。発表の後、いちおうコメントというか補足の解説を私がするのですが、宝塚については(たぶん発表してくれた中国人より)知識がない。なので、日本の都市部(特に東京と関西の)「私鉄文化」について話をしました。住むところを「路線」と「駅」で表すことが多いとか、なんとなしに「序列」みたいのがあるんだよ、とか、沿線開発の話とか。

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学生のプレゼン

話は変わりますが、同じ漢字文化なので、話が通じやすい反面、すれ違いもあります。たとえば「無償労働」。「無償労働にはどういったものが含まれるか?」という問題を学生に出したとき、答えのほとんどが「刑務所での使役」のような回答で、家事や育児と回答したのは1グループだけ。あとから学生が言うには、中国語で「無償労働」というと、どうしてもそういったニュアンスを持ってしまうらしい。なので、いちおう英語(unpaid work)をそえて改めて説明。

授業の終わりの方で、なんでも良いから日本について質問をしてみて、という時間を設けました。学生からの質問は、「日本のキャッシュレス決済の現状」「日本の大学の外国人留学生の様子」「日本社会でのLGBTの権利」「バブル経済のときのアート・音楽」「日本女性の礼儀作法」「和室と洋室の違い」「祝祭日(みんなでなにか祝うの?)」「神社・神道」「文化財の保護(古い建物など、どういやって保護している?)」「ゴミの分別(かなり面倒だと聞いたがほんとか)」「関東と関西の文化の違い」「不登校問題」「いじめ問題(樹海?に入って自殺するケースがあるらしいが、ほんとか)」「皇室の意味・運営の財源」などなど。

いったん授業の話から離れますが、中国でのキャッシュレス化について。これについてはいろんな人が現地レポートしてくれていますが、私も現地の人が現金を使っているところは、滞在中一度も見ませんでした。実は10年前に学会で北京に来たときに使い切れなかった現金を、今回持っていったのですが、現地の人に見せたら「なつかしい」的な反応をされました。古いお札が混じっていたからかもしれませんが。もちろん使おうと思えば使えます。が、現地の人はたいてい、どんなに少額な決済でもWeChat Payですね。最近は日本でもいろんなところで使えます(日本の口座やクレジットカードとの紐付けは難しいようですが)。

WeChatは、LINEとFacebookをあわせて、さらにその他のいろんな機能を含みこみつつ、中国人の生活インフラになってます。授業でも、お世話してくれた中国の先生や大学院生がさっそくWeChatのグループを作ってくれて、連絡や質問をそこでできるようにしていました。まあこれは、日本でもLINEでやってる人は多いでしょう。

そして道路交通事情。10年前と比べるとだいぶマイルドになっているような。ただ、やはり歩行者に対して自動車やバイクの「優先度」が高いので、歩くときは十分気をつけないといけない。法律的には歩行者優先らしいのですが、全く守られていません。横断歩道を渡っていても、ふつうに車やバイクが突っ込んでくる。さらにバイクはほとんどが電動なので、音もせずに後ろから接近するので、歩くときは常に後ろを意識しないとダメ。中国の人によれば、歩行者も運転者もお互い「ウザい」と思っているらしい。

自動車のメーカーを観察してたのですが、北京の都市部だからか、ドイツ車が半分程度。BMWメルセデス、そしてVW。残り半分については、韓国車、日本車、アメリカ車が同じくらいの割合でしょうか。日本車の中では、日産が多かったかな? プリウスは一台も発見できず。いずれにしろ、日本の都市部と違って小型車はほぼ皆無。ほとんどセダンかRVタイプ。

次にネット環境。あらかじめ聞いてましたが、やはり制限がきつい。ふつうにやっても、Google関連のサービスは利用できません。Facebookもダメ。Hatenaは、アクセスできる時もありましたが、不調。たぶん、GoogleがNGなせいで、他の多くのサイトも共倒れしてしまう。YahooJapanは、トップページはなんとか表示されますが、検索はできない。検索が封じられると、いろいろ不便です。授業で、日本のいろんなことの紹介をしようと思っても、その場で検索や閲覧ができない...。ただ、迂回する手段はあります。みんなこっそり?やってる。ネットに限らず、中国社会の自由さと不自由さは、ひとことで言い表すことは難しい。

下の写真は、学生寮の下の歩道。テーブルに、学生たちがスマホで注文したランチが置いてあります。決済はスマホで済んでいるので、あとは受け取るだけなのですが、宅配業者がテーブルに放置して、注文した学生が好きなときに回収する。なんとも自由な発想。

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デリバリー

授業の最後に、学生たちからお花をもらいました。みなさんのおかげで、最初から最後まで気持ちよく授業できました。感謝!

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学生からお花
授業の様子は、現地で記事にしてもらいました。

帰途は、一週間以上の海外滞在でだいぶ疲れたのと、帰国の翌日に東京出張ということで、無理せずにビジネスに。エア・チャイナのビジネスはかなり安いのですが、サービスはよいです。

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旅の最後にお酒

日本酒は獺祭。また来よう!