カナダの格差問題
今日はトロント大学社会学部で階層論を研究している教授と話をする機会がありました。いろいろ話を聞いてきたので、メモ。
会話調で再構成しています。(多少脚色あり。話の把握に間違いもあるかもしれないので、教授の名前は伏せておきます。)
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私「日本の社会学でも階層論は盛んで、50年ほど歴史を持つ調査も行われてます。主に世代間の階層再生産(開放性)が論じられてきましたが、最近は不況の影響もあってアジェンダが変化しています。問題になっているのは非正規雇用の増加が引き起こすと考えられている格差です。特に若者の失業や非正規雇用が話題になります。カナダではどういうことがアジェンダになっていますか?」
教授「うん、ここでも似たような問題はあるよ。不況もあって、卒業から仕事を見つけるまでの期間がどんどん長くなってる。職が見つからない若者が非正規雇用に流れるのも同じ。大学入学時にいったん家を出たのに、仕事がないから両親の家に出戻る若者が話題になるよ。」
私(こっちもいたか、パラサイトシングル...。)「なるほど、求職期間が長くなるんですね。日本では一括採用というシステムがあって、卒業後すぐに正規雇用が見つからないとその後不利になったりするんですよ。」
教授「へえ〜。そういうのはないね。」
私「この問題に対して、社会学者はどういう考えを持っているんですか?」
教授「それがねえ。みんなあまり関心ないんだよ。カナダで階層といえば、昔からジェンダーと民族。特に近年はニューカマーの移民(注:主に南アジアと中東からの移民)が貧困に陥るという問題があって、それが関心を集めてる。もちろん大事な問題だけど、バランスが悪いと思うよ。」
私(日本では若者問題花盛りなのに、こっちでは若者は結構冷静なのかね。)「若者にとっては求職期間の長期化は問題ですよね。何で関心を集めないんですか?」
教授「伝統的にジェンダーと移民が研究されてきたのもあるし、ファンドの問題もあるんだ。現政権(注:カナダ保守党)は移民に力を入れている。ハーパー(首相)が中国やインドでいい顔をしたがる理由もそれだと思うよ。移民がカナダで経済的に自立できるということが重要になるので、研究費も移民研究に多く降りる傾向があるんだよ。日本はどうなの?」
私「日本はそもそもあまり移民を受け入れてないですからね。格差は、失業や非正規雇用の増加による貧困、ワーキングプアの問題として論じられてます。ところで、格差の拡大といっても、そういう貧困層の増加という問題と、トップ層への富の集中という問題は別だと思うのですが、カナダではどちらが注目されているんですか?」
教授「両方。ニューカマー移民や若年層の貧困もあるし、他方でトップ層への集中も進んでいる。アメリカほどではないけど。日本ではそういう問題はないんじゃない?」
私「こちらに比べれば日本のトップ層の報酬は小さいですからね。」
※※※
...とまあこんなかんじで情報交換して、その後は理論的な話でおおいに盛り上がりました。北米の社会学は強い実証バイアスがかかっているので、こちらで理論的な話ができたのはなかなかの収穫。教授の最近の関心は「格差とコンティンジェンシー」にあるらしく、アルチアンなどに注目しているとのこと。話は進化経済、ロールズ、Freakonomics(いわく続編はあまり面白くなかったとのこと)、ルーマンと続き(その人はもともとドイツ出身なのだ)、持論を展開されました。すごく単純化すると「コンティンジェンシーに対する対処次第で格差の社会構造や格差への補償制度が変わってくる」みたいな話。けっこう刺激的だったです。
私自身も新制度派が好きなので、話を合わせていると、かなりよろこんでくれたみたい。日本から来た社会学者と話が合うとは想定してなかったんだろうなあ。
ともあれ、実りの多い話ができました。近いうちにもう一回お邪魔することにしよう。
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