社会学者の研究メモ

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『大卒就職の社会学:データからみる変化』一部サマリ

学部ゼミ生を抱える身として、サマリをいちおうメモ程度に。(一部の章のみ。)

大卒就職の社会学―データからみる変化

大卒就職の社会学―データからみる変化

  • 1章 日本の大卒就職の特殊性を問い直す:QOL問題に着目して(本田)
    • バブル期以降、大学進学率が上昇しているのに、それに対応した大卒の労働需要の上昇がなかった。採用が改善したポスト氷河期(07〜09年あたり)では大卒求人総数がバブル期を上回ったが、それ以上に大卒者が増えていたので、求人倍率はバブル期なみには戻らなかった。(構造的に「大卒余り」状態。)
    • 「ロストジェネレーション世代」とポスト氷河期世代の働くことについての意識(新入社員当時の調査)を比べると、後者は前者に比べて標準的働き方(最初の会社に留まって転職しない働き方、フリーターを容認しない態度)に肯定的。
    • 他方で「ポスト」世代は、自分たちの直前に氷河期があったことを意識しているので、バブル期の新卒と同じような意識でいるわけではない。ポスト期の新卒は、バブル期以前のような「会社人間」の再来ではなく、能力やスキルの面から冷静に仕事をみる傾向がある。
    • 就職活動は近年「早期化」「長期化」しており、また採用過程も複雑化・厳選化しているので、採用基準の不明確性とあわせて、現在の就職活動は学生にとってかなりストレスの貯まるものになっている。
  • 2章 大卒就職機会に関する諸仮説の検討(平沢)
    • 東大の『若年層年パネルデータ』を使って、いわゆる学校歴仮説(入学難易度の高い大学の卒業生のほうが「よい」就職をしている)を検証している。
    • 正規雇用への就職率に関しては、大学レベルごとの差は認められなかった。
    • 大企業・公務員については、大学のレベルが高いほうが就職率が高かった(文系では、私立中堅以下校と比した「銘柄」校ではオッズが4倍ほど高い)。
  • 7章 「自己分析」を分析する:就職情報誌に見るその変容過程(香川)
    • 就職情報誌において、自己分析の考え方はポストバブル期に登場するが、いわゆるアピールポイント(他の応募者と差をつけるツール)であった。したがって探し出すのは自分の中の長所である。
    • その後90年代の後半に自己分析概念が拡張して、長所を探すという就活のツールの範囲を超えて、「(長所・短所という視点を超えて)より深く自分を見つめ直す」という考え方に変わる。より深く理解した自分を面接で出すことで、より相性のよい企業への就職が可能になる、というロジックが登場する。著者によれば、このことの背景には、不景気で厳しくなる採用において、不採用の理由を「相性」にすることでストレスを軽減する仕組みがあったのではないか、ということ。
    • このような意味では、若者の「やりたいこと」志向が就職を邪魔しているというよりは、むしろ就職において「自分はどういう人物か/自分が何をしたいのか」を明確に意識することが強制されている、という見方ができる。つまり「やりたいこと志向→就職難」ではなく「就職難→やりたいことの確定」という因果)。
  • 8章 なぜ企業の採用基準は不明確になるのか:大卒事務系総合職の面接に着目して(小山)
    • まず新卒の採用過程において面接は重要であるが、評価項目は曖昧であり、個々の評価項目の積み上げではなく総合評価で判定される。また、ほとんどの場合「注力エピソード」(大学生活で何にどのように力を注いできたか)を尋ねる。その上で、以下の理由で採用基準が不明確になる。
    • 理由1:評価項目にあるような内容を学生が知らないからではなく、学生がそれを知って事前に対応するからこそ、面接ではむしろそれ以外の(非言語的)情報に重点が置かれてしまう。
    • 理由2:採用枠は固定されておらず、採用活動時期と計画の充足状況に応じて変化する。(たとえば早期段階だと基準が緩くなるかもしれない。)

まとめると、「大卒は基本的に余っている」「有力大学の強さは健在」「就職難によって自己分析が強制された」「面接の評価項目が企業と学生で共有されているからこそ採用基準が曖昧化する」といったところだろうか。