社会学者の研究メモ

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大学組織の謎

ゼミの学生でテーマに「大学組織論」を選んでいる学生がいて、なかなかに難問なのでここ数ヶ月一緒にあれこれ考えてきました。

大学組織というのは、考えれば考えるほど謎です。80年代以降急速に発展をした「組織の経済学」の枠組みを使っていろいろ論じようとしても、どうしても本質的な特徴をつかまえきれないところがあります。もともと「組織の経済学」は営利企業を想定したものなので無理もないかもしれないですが。サイモンやシステム論を利用することも考えなきゃいけないのかもしれないですが、正直ピンとこないし...。(社会学的な組織論って、なんか説明項と被説明項がごっちゃになってて、「結局どうすりゃいいのよ」って思ってしまう。)

やはり一番大学組織の謎を深めているのが、理事会と教授会の分権体制です。これは言ってみれば事業部制みたいなものなんですが、果たして事業部制に適用できる合理性が大学の分権体制にあるのかどうかが不明。たしかに規模が大きい大学だとオーバーヘッドコストが無視できませんが。

最近のトレンド(というか文科省の方針というか)は理事会の決定権の強化ですが、そのやり方は大学によって様々ですね。関西の某大学は、いわゆるマトリックス組織を目指しているような気がします。教授会組織を保存したままで、理事会が事務系統を通じていわば横から(学部横断的に)介入する、というかたちです。これはなかなか上手いやり方かもしれません。というのは、大学教員というのはしょせん個人営業のようなもので、ヒエラルキー組織の命令系統に沿って行動するのではなく、自分にとって必要なリソースを適当な場所から引っ張ってきて成果をあげていくようなタイプであるから。また、理事会としては「抵抗勢力」(教育も研究もしない教員)を放っておいて、やる気のある教員にサポートすることができる。

とはいえ、実質的な人事権を教授会が持っている以上、理事会は新たな組織をつくってこれを直属としたり、「伝家の宝刀」である分配決定権を振りかざす場面もこれからはいろんな大学で目立ってくるでしょう。その際の抵抗力を掘り崩すためにも、マトリックス組織化が有効になるかもしれません。

マトリックス組織はこれらかの大学組織を考える上で枠組みになりそうですが、もうひとつ考えられるのが、大学教員を組織構成員ではなく、「取引相手」にするやり方。もともと大学にとって教員はいってみれば社員ってよりは生産財なんですよね。そこからごく一部が社員(意思決定主体)になるんですが、社員になると、本業である研究をあきらめてもらうしかない。研究はたいていは学内組織でやるもんじゃないし、たいていは個人か、大学間のネットワークをつくってやるものですしね。