忙しい人向け格差社会QandA
ソーシャル・キャピタルの話は少しお休み。(少し整理する時間をください。)今日は別の話です。
最近、授業やゼミで格差社会について話題にすることが増えたという先生方は多いのではないでしょうか。「格差は拡大しているの?」「格差は固定化しているの?」「若い人が損している(世代間格差)って本当?」といった問いにシンプルに答えた本として、この本は最適かと思います。
- 作者: 樋口美雄,財務省財務総合政策研究所,財務総合政策研究所=
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2003/12
- メディア: 単行本
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「読むヒマがない〜」という人向けに、簡単に内容をまとめておきました。
第1章 所得格差の拡大はあったのか(大竹文雄)
- 所得格差について『家計調査』『国民生活基礎調査』『所得再分配調査』の3つから分析。世帯人数を調整した「等価所得」で計算すると格差の増加割合は低くなるものの、全体としては格差が拡大する方向にある。
- クロスセクションでの所得格差と生涯所得格差は同じではない。アメリカのように転職による所得アップがよくある社会だと、クロスセクションでの所得格差の大きさに比して生涯所得格差が大きくならない。また、年齢階層間の所得格差が大きい社会でも、両者は乖離する。
- 生涯所得格差の代理指標として消費の不平等を用いることができる。日本では所得格差に比べれば消費格差は小さいが、消費格差は89年以降所得格差を上回るスピードで大きく上昇しており、生涯所得格差の拡大を示唆している。
「で、結局格差は拡大しているの?してないの?」という質問には、さしあたって「少ししている」というのが正解のようです。
第2章 日本における資産格差(太田清)
- 一般に所得格差よりも資産格差の方が大きいものだが、日本でもそうである。とはいえ日本は他の国と比べて資産格差が大きいというわけではなく、真ん中くらいである。
- 地価が高いことから日本では金融資産よりも土地資産の方が大きい割合を占めているが、バブル崩壊後は他の国と同様金融資産の割合が増えている。
- 地価下落のため遺産のウェイトは小さくなってきたが、今後は少子化の影響からウェイトが大きくなる可能性もある。
- 公的年金制度(「年金資産」)を通じた資産移転については、貧しい若者から裕福な高齢者への逆進的移転が生じている。
「若い人は損しているの?」という質問には、とりあえず「損している」と答えてもそれほど大きな間違いではなさそう。
第3章 パネルデータに見る所得階層の固定性と意識変化(樋口美雄他)
- 個々の社会の社会移動パターンは「格差」と「流動性」の二つの軸で分類できる。たとえば「格差は大きくて流動性(移動)も小さい社会」(身分制社会?)、「格差は小さくて流動性も小さい社会」、「格差は大きいが流動性も大きい社会」を考えることができる。
- 日本はどれ? 家計研のパネルデータで調べてみた。
- 他の条件をそろえて1993-4年と2000-1年で同一個人(夫)の所得の増減をみてみると、この7年間でかなりの固定化の傾向がみてとれる。
- 夫転職者の約4割は、最低所得階層に属する。ほとんどの場合、転職しても所得は小さいまま。なので転職は格差縮小に貢献していない。
- 妻の就業と所得は世帯格差を縮小しない。
「格差は固定化しているのか?」という質問には、とりあえず「そういう兆しがある」と答えておくといいでしょう。(ここでの固定化は世代間ではなく世代内での固定化。)
もっとも、すべてにおいて一番よい答えは「自分で文献を読んでみて」であることは忘れずに...。
続きはまた今度。