社会学者の研究メモ

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第一回「連携」研究会を終えて

「来ても10人くらいだろうから、ちっこい部屋でいいや」という予想を大幅に上回る30名の方が参加された「人文学・社会科学における質的研究と量的研究の連携の可能性・第一回研究会」を、無事終了致しました。(無事、といってもちょっと研究会本体の時間を長く取りすぎて、最後はみなさんお疲れでしたが...。)

備忘録として、ここに当日の様子を書き留めておきます。

午前11時からは筒井の報告。研究会が始まる前から、午後に報告してくれる酒井泰斗さん(id:contractio)をすぐに認識できなかったり(6年ほど前にお会いした時と多少違って見えた)、予告なしに姿を見せられた稲葉先生(id:shinichiroinaba)をこれまたすぐに認識できてなかったり(ウェブの写真と違う...)、多少の焦りはありましたが、報告(「計量分析はどのようになされているのか:回帰分析を中心に」)自体はまあうまく行ったかなと思います。

大雑把に言えばこういうことをお話ししました。

  • 回帰分析、あるいは計量的因果関係の分析の世界では、さしあたりX→Yの(バイアスのない)因果関係関係が立証されていれば、それがどんなに理解不可能な関連性であっても、間違いなく政策的含意を引き出せる。
  • とはいえ計量研究者はこのような場面に出くわすことはあまりない。なぜなら、理解できない関連性を、媒介要因分析によって意味的に理解可能な関連性に置き換える試みがなされるだろうから(たとえそういった「説明」が政策的に意味を持たなくても)。たとえば調査データの探索的分析(マイニング)によって理解不能な関連性が見つかったときは、その関連性はバイアスの観点から「除去」されたり、媒介の観点から「説明」されたりするでしょう。調査データにおいてはバイアスは完全には取り除けないので、できる範囲でバイアスを除去した上でも意味不明な関連性は、未知の要因による擬似相関として考えられるのだと思います。

稲葉先生がご指摘のように、一口に計量分析といっても広大な世界が展開されています。特に最近は構造推定、ベイズ統計、SEMなど多様な広がりを見せており、私が説明したような古典的回帰分析の世界はそのなかのほんの一部です。とはいいつつも、回帰分析が(不十分ながら)目指してきた無作為化実験を範とする因果推定も、DAG/マルコフ独立/ベイジアンネットワークなどの新たなモデル展開のもとになっている根本概念であることに変わりはないでしょう。また、報告の中で触れたように、回帰分析は因果推定の域を超えた「意味的に理解できる説明」の道具として使われているという現状があります。

酒井さんの方からは、今後の研究会で論点になるであろう議論をいくつか整理してもらいました。同時に、「実証主義」の登場以降、社会科学でも方法を説明するために用いられている考え方(「法則定立による因果説明」など)が、自然科学を含む研究の実践を上手に記述できていないということについて説明がありました。この研究会は、(何年後かわかりませんが)ふたたびこの議論に立ち返っていくでしょう。

フロアからも貴重なコメントが多数ありました。ひとつだけ紹介すると、ここ最近インタビューで話題の岸政彦先生には、二日酔いで途中で帰られる前に、フィールドワーク研究において知識の妥当性がいかに確保されているのかについてコメントをいただきました。(フィールドワークは、それを通じて提示される知識の妥当性を、関連する様々な人々の「チェック」によって得ているという側面がある、など。)

振り返ってみれば、私や小杉考司さんなどの計量研究者、岸さんや久保田裕之さん、井口高志さんなど、それぞれ最前線で活躍されている若手の質的研究者、そして(司会してくれた)前田泰樹さん・酒井さん・(新刊が好評の)小宮友根さんなどのEM陣営が一堂に会した、非常に貴重な場になったと思います。

第二回研究会は、来年2月ころに予定しています。(内容は検討中。)