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社会学者の研究メモ

はてなダイアリーから移転しました。

各種ジェンダー関連指標のまとめ

社会学

(文献紹介は一回スキップします。)

国際マイクロデータの普及に伴い、徐々に国別のジェンダー平等を測るための総合指標(composite index)が利用される機会も増えているように思います。総合指標はその算出方法を考慮しないと十分に生かせないところもあります。ここで簡単にまとめておきますので、よろしければご参照下さい。

以下で解説するのはHDI、GDI、GEM、ついでにGGGIです。最初の三つは国連開発計画(UNDP, United Nations Development Programme)が毎年発行する『人間開発報告書(Human Development Report)』で発表されます。

HDI (Human Development Index)

HDI人間開発指数)はジェンダー関連指標ではありませんが、GDIの算出方法のもとになる指標なので、説明しておきます。これは国ごとの生活全般の豊かさを単なるGDPではない指標で測ろうというもので、パキスタン人経済学者マブーブル・ハックらを中心に、アマルティア・センのケイパビリティ概念を参考に作られた指標です。

HDIは以下の三つの数値から算出されます。

このうち一般にはなじみが薄そうなのがGERで、これはHDIでは初等・中等・高等教育のそれぞれについての就学率の平均値になります。

指標作成の流れをUNDPの資料をもとに図示するとこうなります。

図中で「指数」とあるのは、おのおの値を0から1までの範囲に標準化したものです。計算式は単純で、

  • 指標=(当該国数値-最低値)/(最高値-最低値)

です。この最低値と最高値は実際の値のレンジではなく、HDI算出のために独自に設定された値になります。たとえば出生時平均余命は、最低値が25、最高値が85として計算されます。ですので、たとえば2007年のトルコの場合、出生時平均余命が71.7であるので、

  • トルコ余命指標=(71.7-25)/(85-25)=0.778

となります。成人識字率の場合、最低値0と最高値100で指標化されます。つまり数値をそのまま100で割ってやるだけです。トルコの場合、88.7ですから、成人識字率指標は0.887です*1。総就業率も100で割るだけです。トルコの場合71.1ですから、0.711です。この二つの指標について、識字率に2/3、総就業率に1/3のウェイトを掛けて足しあわせると、教育指標になります。(つまりHDIは教育指標に関しては識字率重視になっています。)

  • トルコ教育指標= (2/3)×0.887+(1/3)×0.711=0.828

一人あたりGDPは40,000から100のあいだで指標化されます。トルコの2007年の値は

  • トルコGDP指標=(log(12955)-log(100))/(log(40000)-log(100))=0.812

です。以上の三つの数値を平均すればHDIです。

  • トルコHDI=1/3×(0.778+0.828+0.812)=0.806

参考までに、2007年の一部国の数値は以下のようになっています。

HDIの概念については批判も多いのが事実です。環境問題への対処を考慮していない、北欧ばかりが上位になる、等々です。また、指標の設計上先進国はすべて高い値を取るようになっており、そういった国にとっては改善の指標として利用しにくいという問題もあるでしょう。

GDI (Geder-related Development Index)

ジェンダー開発指数」。GDIはHDIの「ジェンダー補正バージョン」です。ですので、算出方法はHDIと似ています。活用される情報はHDIと同じで、出生時余命・教育程度・生活水準の三つの情報を使い、この数値に対して男女格差のペナルティを科す、という算出方針になっています。

具体的には、HDIで使われる3つの指数を今度は男女ごとに作りますから、計6つの指数を計算します。その上で、3つそれぞれの要素別に、「均等分布指数(equaly distributed index)」というものを計算します。式(調和平均)は以下の通りです*2

  • 均等分布指数=1/{(女性人口割合/女性指数)+(男性人口割合/男性指数)}

あとはこうして計算される三つの均等分布指標の平均(非加重)を計算すればGDIのできあがりです。ただし、2つ注意すべき点があります。

(1) GDIでは、男女の余命に5年の自然な差があると考え、男女別の余命指標を作るときに別々の最低値・最高値を使います。具体的には、

  • 女性余命指数=(国の女性平均余命-27.5)/(87.5-27.5)
  • 男性余命指数=(国の男性平均余命-22.5)/(82.5-22.5)

となります。

(2) GDPの代わりに男女別の平均所得($US購買力平価)を用います。ただし推計は少々複雑なので、上記資料のテクニカルノート(p. 361)をみていただくのがいいと思います。

参考までに、2007年の一部国の数値は以下のようになっています。

GDIはHDIとは基本的に連動しており、相関係数は2007年データで実に0.99以上になります。算出方法から分かるように、GDIはそれ自体では基本的にジェンダー平等を表す指標ではありませんHDIジェンダーに関して補正したものです。つまり男女格差が大きくても、もともとのHDI自体が高いと高いスコアが算出されます。また、GDIが下がったとして、それは男女格差のペナルティーが広がったか、あるいは男女ともによい数値が得られないとき、ということになります。したがって、UNDPでは、ジェンダー平等についてはHDIとGDIの差あるいは比率をみるべきである、と注意を促しています。とはいえこの差は非常に小さくなることがほとんどなので、単純に次に紹介するGEMを利用した方がいいでしょう。

GEM (Gender Empowerment Measure)

GDIがHDIに男女格差ペナルティを科した指数であるのに対して、GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)は経済的・政治的な意思決定への参加のジェンダー差を指標化したものです。計算に際しては、以下の図のように三要素に関してEDEP(Equally Distributed Equivalent Percentage、等分布等価比率)と呼ばれる指数を計算して、その平均値をGEMとします。

EDEPの計算方法はGDIでの「等分布指数」の計算方法と同じです。ただし所得指数の計算においては対数を使わない点が異なります。

2007年の数値例は以下のようになります。

GEMは、HDIと連動しやすいGDIに比べ、地位の男女比率を利用している部分が多く、比較的男女格差に敏感な指標です。GDIとは一致せず、相関係数は0.67程度です。参考までに、散布図とOLS回帰直線を計算した図を掲載します。


GGGI (Global Gender Gap Index)

こちらの方はUNDPではなく、ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが発行するGlobal Gender Gap Reportに掲載される指標です(あまり使われているのをみたことがないですが)。コンセプトの一つに「レベルではなくギャップを反映させる」というものがあり、GDIよりはGEMに近い設計になります。

計算方法は、以下の項目について男女比を計算することがファーストステップです。

  • 経済的参加と機会:労働力率、同類職における賃金、平均所得、立法職・政府高官・管理職比率、専門・技術職比率
  • 教育達成:識字率、初等就学率、中等就学率、高等就学率
  • 健康と生存:健康寿命、出生性比
  • 政治的エンパワーメント:国会の議席、大臣数、最近50年の首長の在任期間

データ自体はGEMとかぶっているものも多く、実際算出に当たってUNDPのデータが一部利用されています。ともあれ、この14個についてそれぞれ男女比を求め(たとえば議席数が女100で男400なら0.25)、さらに1を超える値については上限を1に設定*3して切り捨てます。

次に、上記4つのカテゴリーごとにサブ指標を作ります。ここが少々面倒なのですが、単なる項目(比)の平均を求めるのではなく、加重平均しています。そのウェイトは、まず各項目の標準偏差を求め、0.01を標準偏差で割った値を使います。ちょっと分かりにくいのですが、要するに国間のばらつきの小さい項目のウェイトが大きくなるように調整しているわけです。たとえば初等教育就学率は同じカテゴリーの中の4つの項目のうちの一つなので非加重ならば0.25のウェイトと同じになるはずですが、実際には0.459のウェイトを割り当てられています。同様の理由で「最近50年の首長の在任期間」のウェイトも0.443と高くなっています。

最後にこうして算出された4つのサブ指標の非加重平均をとると、GGGIの完成です。適当に国の値を書き出しておきます。全部で134ヶ国です。

GEMよりもさらに、日本の順位が低くなります。マレーシアやケニア、インドネシアボリビアより低い位置です。これより下の先進国は韓国(115位)しかありません。

GDI、GEM、GGGIの三つの相関係数は以下のようになります。

             |      gdi      gem     gggi
                                                                                • -
gdi | 1.0000 gem | 0.6764 1.0000 gggi | 0.4959 0.7648 1.0000

GGGIはGEMよりもさらにGDIからは遠い指標になっており、全体的水準ではなく純粋にジェンダー平等の指標となっていることが分かります。GEMは所得の部分で水準の影響が残っており、これがない分だけGGGIはGDIから離れているわけです。

おそらく想像できると思いますが、日本の順位を下げているのは主に政治指標です。そこで、サブ指標まで載せてみます。(econ=経済、educ=教育、he~h=健康、po~l=政治。)

    let3n    gggi   gggiecon   gggieduc   gggihe~h   gggipo~l  
      CAN   .7196      .7641      .9977      .9783      .1383  
      JPN   .6769      .6782      .9851      .9791      .0651  
      KOR   .6146      .5204      .8936       .973      .0714  
      MEX   .6503      .5089      .9781      .9796      .1348  
      SWE   .8139      .7851      .9977      .9735      .4994  
      USA   .7173      .7501          1      .9795      .1398 

教育と健康については他の国と遜色ありません。が、やはり政治が低めに出ています。スウェーデンの順位を上げているのも政治指標です。

GGGIは各サブ指標を作る際にはウェイトを掛けるのですが、サブ指標を合成するときには非加重です。サブ指標の標準偏差も、教育と健康では差が付きにくいのに対して政治指標や経済指標で大きな差が付きます。

    Variable |       Obs        Mean    Std. Dev.       Min        Max
                                                                                                                                          • -
gggi | 134 .6780052 .0581724 .4609 .8276 gggiecon | 134 .630641 .1135521 .2334 .8334 gggieduc | 134 .9496157 .0899695 .4743 1 gggihealth | 134 .9722679 .0103311 .9315 .9796 gggipoliti~l | 134 .1595082 .1171209 0 .5905

さらにOECDだけに絞ってみると、政治指標の効果はさらに強くなります。

    Variable |       Obs        Mean    Std. Dev.       Min        Max
                                                                                                                                          • -
gggi | 30 .72136 .0587173 .5828 .8276 gggiecon | 30 .6679267 .089266 .4002 .7851 gggieduc | 30 .9885933 .026706 .8923 1 gggihealth | 30 .9760867 .0034234 .9696 .9796 gggipoliti~l | 30 .2528667 .1557706 .0651 .5905

この政治指標を除いて非加重平均して新たに指標を作ってやると、日本の順位は44に上昇します。(なぜか一位がモンゴルになってびっくりするのですが...。)カナダやアメリカも大幅に順位が上昇します。政治指標を軽視するわけにはいかないでしょうが、各サブ指標のばらつきに応じて加重平均した方がいいという考え方もあるかもしれません。

終わりに

以上のように、ジェンダー関連指標は独自の特性が無視できませんので、それに応じて活用する必要があることが分かります。個人的な感想としてはGEMが汎用的だと思いますが、GGGIも政治指標の取り扱いに注意すれば純粋なジェンダー平等の指標ですから使いやすいと思います。とはいいつつも、たとえば国際マイクロデータをランダム効果モデル(あるいは級内分散補正)で推計するような場合、特定の指標を用いる意味を吟味する必要はあるでしょう。場合によっては指標の元となる個々の値(あるいはサブ指標)を用いた方が理にかなっていることもあると思います。

たとえば前回の記事で紹介した論文は被説明変数として管理職比率を用いていますが、GEMやGGGIをみるかぎり北欧諸国の女性の経済的地位は決して低くありません。ただし、経済指標の推定に労働力率や公的セクターの地位が入っていたりするので、それが北欧諸国のGGGIの経済指標を押し上げている部分がどれほどあるのかを検討する必要があるでしょう*4

最後に。政府が「幸福度」の調査に取りかかるという報道がありました。その際、次の三つの点について留意があるといいと思いました。

  • World Value Survey(世界価値観調査)など、すでに日本を含む世界で行われている学術調査とその分析を検討した上で、必要なら新たに調査を検討することにすれば、無駄な調査費用を削減できるかもしれない。
  • ジェンダー格差は依然として日本では強く取り組むべき課題であり、その際にGDI、GEMといった指標があることを念頭に置くとよいかもしれない。
  • むろん幸福度を含めて各種の指標はある程度「結果」であり、それ自体を政策目標とすることに意味があるのかについては慎重に検討すべきである。

*1:ただしいくつかの先進国では識字率が100%に近くなります。このときは99%として計算されます。

*2:厳密には、{(女性人口割合×女性指数1-ε)+(男性人口割合×男性指数1-ε)}1-εという計算式におけるε係数を2だと設定している、という説明になります。この係数が大きいほどGDIは指標の小さいグループ、たいていは女性の値に引っ張られることになります。係数を2と設定していることに関しては、Sudhir Anand & Amartya Senのペーパーを参照。

*3:ただし出生性比の上限は0.944、健康寿命については1.06が上限。

*4:例を挙げると、労働力率には失業者やパートタイムも正社員と並んでカウントされています。そしてスウェーデン女性のパートタイム・時短の比率は非常に高いのです。