社会学者の研究メモ

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第二回連携研究会を終えて

「人文学・社会科学における質的研究と量的研究の連携の可能性」第二回研究会もなかなか盛り上がりました。結局前回と同程度の参加(30名弱)がありました。参加者の方々、ありがとうございました。

本研究会の趣旨には、実は「連携」を模索すると言うよりは、お互いの立ち位置を確認し、不用意な誤解を解き、互いに適切に評価しあうための語彙を模索する、という側面があります。その点でもある程度進展があったと思います。

最初は前田泰樹さん(東海大学)の報告(「行為の記述・経験の記述:質的研究とエスノメソドロジー」)でした。前田さんはいわゆる「ウィトゲンシュタインエスノメソドロジー」の立場から研究されていますが、そのことを知らなくても十分に研究(分析)の方針が伝わるようなやり方で報告していただきました。すでに当事者によって「記述のもとで理解」されている振る舞いを、必要なレベルの精度で再記述するというEMの研究方針について、いろいろ討議ができたと思います。

研究会でも指摘しましたが、個人的にはEMの最重要キーワードである「記述」という語彙のところで、EMに慣れていない人が混乱しているような気がします。英語でいうdescriptionには「説明、描写、解説」という意味合いがありますが、日本語の記述という言葉はむしろ「ペンを手に持って字を書いている」という行動をイメージさせるもので、したがって「理解していなくても記述はできる」ものです。小杉さんからの質問もそういったところを踏まえたものだったと思います。

前田さんの研究の真骨頂は「心の概念(特に「痛み」)の分析」にあると思うので、参加者の方は(またそれに限らず)下記の本をお読みになることをおすすめします。

心の文法―医療実践の社会学

心の文法―医療実践の社会学

2つ目は小杉考司さん(山口大学)の報告(「多変量解析は何をしているのか:量的・質的の垣根を越えたデータの科学へ」)でした。重点的にお話いただいたのは、統計的なアプローチの弱点としてしばしば指摘される「不自然な仮定」の多くは、現在では(主に非線形モデルの展開によって)かなり克服されているものであり、当てはまらないものも多い、ということでした。

個人的には、自分が学んできた計量分析の分野とは語彙も考え方もかなり異なった内容があり、その点は研究会でも発言させていただいたのですが、ふだん計量分析をしない参加者の方々からすれば「計量の世界にもいろいろ考え方があるのだな」ということが伝わるという副産物もあったと思います。

小杉さんの下の本は因子分析についての最良の入門書だと思います。ぜひ一度ご覧になって下さい。

社会調査士のための多変量解析法

社会調査士のための多変量解析法

研究会後の懇親会では、稲葉振一郎先生がなぜ厨先生と呼ばれているのかが(ご本人から)明かされました。来期、東大で行われる非常勤の講義もかなり聞いてみたい。

第三回研究会は来夏を予定しております。報告予定者は成蹊大学の渡邉大輔さんと、大阪大学久保田裕之さんになる予定です(が、変更もありえます)。