社会学者の研究メモ

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カナダの移民と家族政策

カナダの今日のニュース。コペンハーゲン気候サミット、アフガンでのカナダ兵の捕虜虐待見過ごし問題、タイガー・ウッズの不倫とゴルフ活動無期限中止、バンクーバーオリンピック、などなど...とならんで、移民介護労働者の受け入れプログラムの変更のニュースが話題になっています。

家族政策というと最近の日本ではワーク・ライフ・バランス(両立支援)、子ども手当などがよく話題に登りますが、他の先進国での家族政策は移民政策と切り離せなくなっています。

移民が出生力を後押しするという直接的な人口効果もありますが、他方で再生産労働の労働力として移民に期待が集まっている、という事情もあります。

さて。カナダでは今月、移民の介護労働者(ほとんどフィリピン人)に対する永住要件を大幅に切り下げました(Canada to make it easier for live-in caregivers from abroad to obtain residency)。CBC(カナダ版NHK)でも盛んに報道していますが、主な改正点は以下のとおり。

  • 住み込み介護労働者の酷使防止:現行プログラム(1992年成立)では、介護労働者の酷使(パスポートを取り上げて規定外労働をさせるなど)を適切に抑制することができなかったため、この点の改正が一つ。
  • 永住権要件の緩和:たいていの移民は永住権が欲しいわけです(国の家族をカナダに連れてきたいので)。で、現状では永住権申請のためには来加後3年以内に2年間の介護労働実績が必要。これを以下のように改正。
    • 必要労働時間を3,900時間とする。(たいてい2年間より短くなるらしい。)
    • 来加後3年以内という限定を4年に延長。途中で失業したり妊娠したりする可能性に対処。
    • 必要な専門試験のうち、二次試験を廃止*1

先の記事によると、1992年のプログラム導入以来、なんと10万人の介護労働者がカナダにやってきたそうです。これに対して日本では、昨年発動したフィリピンとのEPAは条件面が厳しくてフィリピン人介護労働者には不評らしく、なんだかいきなり尻すぼみ状態です。

日本の高齢化はカナダなんかよりずっと深刻です。というより、世界で初めて経験するであろう、未曾有のレベルの高齢化です。「不況なんだから移民とか言っている場合じゃないだろう」という声もあるかもしれませんが、「介護職の待遇は悪い、なので慢性的人出不足、でも移民も入れません」じゃあこの先行き詰まります。

日本で移民というとすぐに「治安悪化」と結びつける人が多いみたいですが、カナダではそういう話はあまりないです。トロント住民の実に半分は移民(外国生まれ)です。でも治安はいいです。夜12時にで出歩いても何も言われません(歩く人の性別と歩く場所にもよりますが)。

家族政策をすぐさま移民政策と結びつける必要はないかもしれませんが*2、少なくとも家族(再生産労働)政策は経済状況とは独立に準備しておいてよい政策だと思います。

少子化対策子ども手当)の効果は、当然現在の高齢化には効果がありません。落合恵美子先生が予想する「阿鼻叫喚」状態になる前に、政府はなんらかの見通しをたてる必要があるんじゃないかと思います。よりによってこの時期、厚労大臣がなんだかアップアップなかんじなので、なんだか期待できませんが...。

追記

例のMotion Chartを使って、依存率*3と高齢化率(80歳以上の人口割合)の推計値(中位推計)(UNdata)をプロットしています。

単純に言えば、右上に行くほどヤバイ状態かと思います。日本はといえば。

やっぱりトップランナーです。

急激に依存率が高まりはじめるのが2035年後くらいだと推計されていますが、これは高卒の「ロスジェネ」が50歳前後になっている時期ですね...。

*1:この件ではフィリピン人の移民介護労働者Juana Tejadaの病死をきっかけにした草の根運動が実を結んだ、という経緯があります。

*2:実際、移民に対する搾取の問題はどこの国でもあります。ただ、移民のすべてが騙されて先進国に連れてこられた人たちであるわけではもちろんないし、状態から言えば「適度な待遇を保障された移民>酷使される移民>or=移民できない」なわけです。

*3:14歳以下と65歳以上の人口が、15-64歳人口に比べてどれくらいいるか、という数字。日本の2050年の推計値が96.3なので、労働人口1人に対して約1人を支える、ということ。