社会学者の研究メモ

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アンケート調査にはスキルが必要です

トロントとは関係ないネタですが。

社会調査や調査教育に携わったことのある人なら、調査票を作ることにはそれなりにスキルが必要だということを知っているはずです。調査スキルを持っていない人が作った調査票はしばしば深刻な欠陥を含んでいて、その結果得られたデータが学術的に全く使えないものになった、ということはよくあります。調査経験が豊富な学者が集まって慎重に検討した調査票にミスが含まれていることがあるくらいですから(私もミスの経験あります)、いわんや調査シロウトは、です。

問題は、アンケート調査という調査手法があまりに一般に普及しているために、学術的データを得る手段としての調査票作成も簡単にできるのではないかと勘違いしてしまう研究者がいる、ということです。ありがちな悲劇のシナリオとして、偉い学者さん(しかし調査経験はあまりない)が科研費をとり、予算消化しきれないので調査票調査をすることにして、そのときに気軽に調査票を作って調査をしてしまった、というのがあります。最悪のシナリオは、その先生が調査票作成の難しさを想像できないがゆえに、調査教育を受けて多少は経験のあるポスドクや院生の忠告を無視してしまい、結果として役に立たないデータが得られることになるが、ポスドクや院生が先生の命令によってそれを使った報告書を書くことになるようなケースでしょう。ポスドク・院生は調査に多大な労力を費やしたが、悲しいことに徒労に終わってしまいます。

まあ、以上は架空のシナリオですが、実話として聞いたことがある人はいるんじゃないでしょうか。

別のシナリオとして、ある先生が調査をすることになって院生が手伝いをすることになったが、調査票がどうもヘンなので、調査スキルのある先生にみてもらって修正アドバイスを受けたが、もとの先生のところに持ち帰った結果、必要性が認識されずに修正が無視された、というようなケースもあるでしょう。この場合は院生も板挟みになって大変だし、アドバイスをした先生も気まずいです。(アドバイスを無視された先生は、実査の結果ミスが多数判明して「そらみろ」と言いたくなるかもしれませんが、もちろん大変なのは院生さんたちですね。)

まあ、これは先生方の傲慢とかそういうことでは決してないです。調査票があんなに難しいなんて、誰でも最初は分かりませんから。私も最初のころは想像できませんでした。(いまでもミスします。)

調査経験の少ない先生方、調査をするときはどうか経験のある人のアドバイスに耳を貸してやってくださいね。意外と難しいんですよ。

社会調査へのアプローチ―論理と方法 (MINERVA TEXT LIBRARY)

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社会調査法入門 (有斐閣ブックス)

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