社会学者の研究メモ

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カナダの社会学の動向

ここのところ全く社会学ネタがないので、ひとつ投下。午後にトロント大学の博士課程在学中の人とお茶をする機会がありました。「カナダでは社会学って最近どういうかんじ?」という話もしたので、聞いた内容を軽くまとめておきます。

最近の一番の関心事は「移民」だそうです。カナダは一言で言えば移民国家。トロントは特に移民が多く、人口の半分以上は移民。移民はおおざっぱに言えば、ヨーロッパ→東アジア→東南アジア→中東・南アジアという順にカナダに入ってきている。東アジア移民は現在ではそれなりの地位を築いて、三世以上が社会に溶け込んでいる。そのおかげで東アジアからのニューカマーも比較的すんなりと受け入れが進むそうです。

ところが 911テロの影響からくる差別・警戒感もあって、中東・南アジア(パキスタンなど)からの移民については、なかなか同化が進まない。カナダの移民審査はそれなりに厳しいので、入ってくるのは高学歴層。中東・南アジア出身の高学歴移民(技術者や学位保持者を含む)がタクシーの運ちゃんをしているのが普通になっているそうです。

まあそれでも、アメリカのように移民が貧困街を形成するという現象はみられません。トロント市内を歩いていても、ホームレスは(私がみるかぎり)すべてコケイジャン。移民の多くはそもそも高学歴だし、就労差別はあっても一時の犯罪によって上昇機会を奪われることのコストを強く意識するのではないか、ということでした(これは別の教授の話)。

アメリカでさかんにおこなわれているintermarriage(通婚)の研究はあるの?と聞いたら、それなりにある、ということでした。民族ごとに通婚の様子は異なっていて、同じアジア系でも日系とフィリピン系はコケイジャンとの通婚によって同化が進んでいるのに対して、中華系は内婚が支配的だ、ということでした。(ユダヤ系もそうですね。)

エスニシティ以外だと、日本と同じく人口構成の問題が議論されることが多いそうです。日本ほどではないですが、カナダの合計特殊出生率は1.5ほどで、置換水準を下回ってはいます。ベビーブーマーの高齢化を迎え、社会保障制度の維持可能性について懸念されているそうで。

あとは、ネットの普及による社会の変化にも注目が集まっています。ここらへんはどの国でもそうですね。

ついでに「人・社系博士号持ちの就職ってふつう?」と話を向けると、アメリカと一緒ですね、研究分野によっては普通に会社に就職できるそうです。社会学については、アメリカと同じく、世間への精力的なアピールが功を奏したらしく、最近は需要が高まっているそうです。いわゆる「パプリック・ソシオロジー」戦略ですね。たとえば社会学者がメディアからコメントを求められることが多くなってきて、一般の人が「ああ、社会学ね」と認知し始めている、ということ。カナダの社会学でも学問的価値と政策的意義との間で緊張関係があるそうです(これは経済学なんかからすれば理解できない緊張かもしれませんが...)。が、博士号持ちがコンビニの店員をやったりするはめになるよりは、知識が生かせて効率的ですよ。