格差社会論(続き)
第4章 階層再生産の神話(盛山和夫)
一部ではよく知られている話ですが(そうでもないか?)、経済学者は個人間の格差を問題にするのに対して、社会学者はその昔から世代をまたぐ格差の再生産をこそ問題にしてきた、と言えます。この意味では、経済学者が結果の格差に注目する度合いが強いのに対して、社会学者はチャンスの格差(特に両親の階層による機会の不均等配分)に最初から注目してきたのです。
盛山先生の論文は、階層再生産論の問い、つまり「親の社会階層が子どもの社会階層に受け継がれる度合いは、強くなっているのか?」という問いに答えたものです。内容をまとめておきます。(やっと出てきた社会学者の論文なので、分量二倍増し。)
- 1955年から1995年までのデータ(SSM)で言えば、階層の再生産の度合い(閉鎖性)はほぼ単線的に弱まっている。
つまり、先の問いへの答えは明確に「No」である、ということです。
じゃあ例の本はどうなるの?という話になります。
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- 佐藤俊樹氏の『不平等社会日本』(2000)では(95年のSSMデータに則って)「階層の再生産は再び強くなっている」と結論づけたが、これは階層のカテゴリーの分け方をかなり特殊なもの(いわゆる「40歳時W雇上」=「自営専門を除く雇用ホワイトカラー管理職」)にした上でしか成り立たない。
要するに、盛山先生の主張が正しければ、佐藤先生の本は「間違っていた」わけです。とはいえこの本はその後の格差社会論において非常な注目を集めてきました。こういった経緯に対する盛山先生の見方はかなり厳しいです。
このきわめて限定されたものでしかない「閉鎖化」のデータは、「日本社会が構造的に不平等化しつつある」という大きな物語の文脈で解釈され、この物語とは矛盾する他の多くのデータは、完全に無視される。
これは、第三者からすればとんでもない不実な男でも、どういうわけか彼に恋してしまった女性にはその不実さがまったく見えないか気にならないのと同じ現象である。(p. 93)
う〜ん、そこまでいいますか。たしかに、盛山先生は佐藤先生の本が出たすぐあとに、反論してましたね。
さらに、階層再生産メカニズムを「学歴優位格差」(出身階層によって学歴分布が異なること)と「学歴有効性格差」(同レベルの学歴でも出身階層によって本人階層の分布が異なること)に分けた上で、佐藤先生が指摘した「40歳時W雇上」グループの85年から95年にかけての「閉鎖化」は、後者の学歴有効性格差によってもたらされた(つまり本人学歴が同じでも階層の再生産が生じる度合いが強まった)、と論じています。盛山先生は、これはこの世代に多くいた自営業主の子どもが、大学に行ったものの結局は家業を継いだからではないか、と推測しています。自営業を継ぐことが企業の管理職になることに比べて「低階層」であると言えないとすれば、唯一データ的に認められた「40歳時W雇上」の閉鎖化もまた錯覚であった、ということになります。
ここらヘンは少しややこしいですね。詳しくは読んでいただきたいところです。
私自身は家族社会学にコミットしていて、SSMグループの様子はよくみえないところがあるのですが、95年のデータに関しては「世代間再生産は閉鎖化していない」が共有された結論なんでしょうかね。05年データでどうなっているのかも、気になるところです。
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