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社会学者の研究メモ

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公共圏と親密圏(その1)

社会学

The Purchase of Intimacy

The Purchase of Intimacy

上記の本は、アメリカでは有名ヴィヴィアナ・ゼリザー(Viviana Zelizer)の新しい本。ゼリザー*1は「経済現象の社会学的説明」をしたいくつかの業績で知られている。田村祐一郎先生による邦訳もひとつある。

邦訳がない本でよく読まれているものには以下の本がある。

  • 1987 Pricing the Priceless Child: The Changing of Social Value of Children
  • 1994 The Social Meaning of Money

いずれも丁寧な文献資料調査を通じた研究で、定評がある。

して、ゼリザーの論述のやり方はこんなかんじである。

  • 経済活動と、その原理が適用されにくい物事との接点を見つける。
  • その「やりにくさ」を人々がどうやって乗り越えているかを記述する。

ほとんどこれである。最新の「Purchase of Intimacy」でもこのアプローチ方法は変わっていない。この本の第一章(Encounters of Intimacy and Economy)の内容を紹介しよう。

まずは911テロの政府保障のケースがとりあげられる。犠牲者の補償は様々な関係(親子、配偶者、きょうだい等々)に一定の基準で支払われた。世界貿易ビルで犠牲になった女性の一人(McAneney)には長年連れ添ったレズビアンパートナーがいた。このカップル関係を通常のカップル関係として認めるかどうかで裁判になった。このように、親密性と経済的事柄の接触は人々を困惑させ、場合によっては司法の判断を仰ぐことがよくある、ということが主張される。

First, the mingling of economic transactions and intimate relations regularly perplexes participants and observers, and it does not perplex them because it happens rarely. On the contrary, people are constantly mixising their intimate relations with economic transactions. (p. 11)

親密性と経済取引の混合は日常の出来事である。というのも、家族関係に見られるように多くの親密な関係は経済取引を必要不可欠な部分として含むからだ。

My argument concering money, then, constitute no more than a special case of this book's general argument. I argue, first, that people engage routinely in the process of differentiating meaningful social relations, including their most intimate ties. They undertake relational work. Among other markers, they use different payment systems --- media --- to create, define, affirm, challenge, or overturn such disticitions. When people struggle over payments, of course they often quarrel over the amount of money due, but it is impressive how often they argue over the form of payment and its appropriateness for the relation in question. They argue, for example, over distictions among payments as compensation, entitlement,s, or gifts. When you handed me that hundred-dollar bill, were you paying me for my services, giving me my weekly allowance, or displaying your generosity? (pp. 27-28)

要するにどんな相互行為においても人々は関係の定義や維持に気を配っているけれど、それは経済取引と親密性が出会う場所では特に気にされる、ということ。

Nevertheless, when relations resemble others that have significantly different consequences for the parties, people put extra effort into dinsinguishing the relations, marking their boundaries, and negotiating agreements on their definitions. (p. 34)

例えば性交渉は親密なカップルどうしでも、売春という経済取引においても行われるので、境界事例を発生させやすい。そんな場合は、当事者は関係の定義を気にして、関係が変なところに発展しそうになったら改めて定義を強調する振る舞いrelational workを行うということ。謝意をどう表現するか、ということにもrelational workが発生する。なので私たちは通常、ギフトとして(場合によっては送られた側の効用を最大化させる)現金を送ったりしない。

ゼリザーのアプローチは、典型的な「how」のそれだ。問われるのは「いかにして」であって、「なぜ」ではない。だから、「なぜ人々は経済的取引と親密性が出会う場所では関係の定義に特別の注意を払い、またなぜそれがうまくいかない場合は当惑するのか?」という問いについては、結局のところ答えていない。

この問いの答えについては、次回のエントリで考えてみよう。

Pricing the Priceless Child: The Changing Social Value of Children

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モラルとマーケット―生命保険と死の文化 (保険学シリーズ)

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  • 作者: ヴィヴィアナ・ロトマン・A.ゼライザー,Viviana Rotman A. Zelizer,田村祐一郎
  • 出版社/メーカー: 千倉書房
  • 発売日: 1994/04
  • メディア: 単行本
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The Social Meaning Of Money

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*1:邦訳では「ゼライザー」となっている。アメリカの研究者は通常「ゼリザー」と発音している。