社会学者の研究メモ

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院ゼミ(6.9)

京大の院生による、日本における「社会的排除social exclusion」概念の適用可能性についての報告。

報告者自身(フィンランド人の方)はこの概念自身にはどちらかといえば批判的で、もともとは社会民主主義的な福祉レジームの背景から生じてきたものだけに、日本の福祉問題にそのまま適用できるのかどうかについては慎重な立場でした。

私自身も社会的排除についてはよく理解できないところあります。これとか読んだけど、はっきりいって意味がよく分かりませんでした。関連論文なんかを注意深く読んでいると、どうも次のようなモデルを念頭に置いているみたいです。

一つには、社会的排除は「社会的ネットワークからの排除」と貧困とが絡み合っている様子をダイナミックにとらえるモデルだ、という見方ができそうです。もしそうならわりとスッキリと理解できます。とはいえ社会的排除の文脈でしっかりとした社会的ネットワーク研究がされているようにも思えませんので、経験的な研究はこれからだ、ということなんでしょう。

もう一つは、「オフィシャルな社会保障制度からの排除」と貧困との絡みをモデル化したもの、と考えることもできるかもしれません。だとすれば従来の社会保障論・社会政策学とどう違うのかがいまいち理解しにくくなります。

それから、どうも貧困現象を「多面的」に見るというのがウリのひとつになっているようですが、こと社会科学的研究に際しては多面性という言葉には気をつけるべきでしょう。少なくとも多面性は出発点であって到達点ではない。「現象の多様な面をみていこうよ」という態度は、一歩間違えれば要素間の関連性をモデル化すべき社会科学の説明努力の放棄になりかねません。これは以前「文化的多元性」について私が書いたことと同じことです。

ん〜。いろいろ疑問が残りますが、多分に勉強不足の面があると思いますんで、もうちょっと勉強してみようかな、と思います。