社会学者の研究メモ

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制度的同型化

一部トップ校でとんでもない入学競争倍率になっているのが話題になったアメリカの大学ですが(ハーバードなんかではそこそこの高校の主席卒業でも落ちてたりするらしい)、ここ数年の流れをみると、その裏で学費値下げ合戦をやってきたみたいです。

The (Yes) Low Cost of Higher Ed (NYTimes, April 20, 2008)

  • 2003年10月、ノースキャロライナ大学が貧困線の150%以下の世帯収入の家の学生の学費免除を発表。
  • それをみてびっくりしたヴァージニア大学の学長が「うちはもっとやるぞ!」とさらに太っ腹な貧困学生援助を発表。
  • 次の春にハーバード大学が年収40,000ドル以下の学生の学費免除を発表。
  • イェール、メリーランド、MIT、ペンシルヴァニア大などが追随。しまいにはハーバード大は年収180,000ドル以下の学生に結構な額を援助し、州立大学なみの学費にすることを発表。

これは、社会学の同型化理論(「制度は市場等の環境要因からではなく、他の同等の組織の制度をまねる形で広がる」)のいい例かもしれない。もちろん競争もあったにせよ、それは事後的なもので、かつそれ以前に大学間にカルテルが存在した、というわけでもない。

「学費を下げたらどうなるか」(短期的な損を長期的に取り戻せるのか)というのは正直、大学の経営者にはわからなかったことだと思います。経済学でいう「不確実性」ですね。不確実性の強いケースでは楽観的な企業家がイノベーションを起こす、ということだとすれば、そういったイノベーションには追随する後続者がいる、ということもありえそうです。後者が社会学的な制度論institutionalismの立場。

ところで経済学でいう不確実性というのは、生起回数が極端に少ないために確率分布からは予測できない出来事をいいます(「ナイトの不確実性」)。この立場だと、既知の確率分布から予測できるもの(自動車事故とか寿命とか)を「リスク」と呼んで、区別しています。

不確実性については以下の本など。竹森先生のは経済学の本で、グローバル化ネオリベラリズムを単純に結びつけて「1997年の貨幣危機を機にIMF体制の〜」といった枕詞で話をされる方は、事態はそんなに単純ではないということを確認するためにまず読んでおいた方がいいかと。タレブさんの方は「読み物」風で読みやすいですが、社会学者からすれば目新しい話ではないような。

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)

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The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable

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