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社会学者の研究メモ

はてなダイアリーから移転しました。

「少子化論争」(1)

社会学

いや〜展開が早いので(?)ついていってないです。したがっておなじみの「頭の整理」です。

第一段階:「少子化が進んでいるマズい!」という空気が流れる。(なぜマズいのかはいまいち不明なまま。)
第二段階:「少子化の原因は男女共同参画の遅れだ!(女性が安心して働いて子育てできない社会だからだ!)」という空気が流れる。(この時点でのデータ分析にはいろいろ問題があったらしい。)
第三段階:「少子化男女共同参画には関係がないだろ!」という指摘が赤川学氏によってなされる。赤川氏は男女共同参画には賛成で、ただし少子化対策をダシにするのには反対、さらに実際に少子化対策として男女共同参画を進めるのはデータからしてもおかしい、と指摘。(思えば赤川氏がこの二つの主張を同時にしたので、みな(?)の頭がこんがらがったのではないか。主張自体はクリアなものだったが。)

整理すると、現時点でふたつの論争があって、ひとつは少子化の原因についての論争、もうひとつは制度設計についての論争。

まずは前者について。

少子化の原因を探る」といった場合、計量的にもいろんな方法が考えられる。ひとつにはミクロデータを中心に、個人の意思決定に変動を与える要因を考えること。この場合は制度・環境の違いを考慮して、たいていはひとつの国のなかのデータを解析する。しかし少子化についてはこのやり方だとあまり意味がない。日本全体が少子化しているのに、日本の国のなかの個人どうしの違いを見ても効果はあまり見えてこない。あえてやるなら、パネルデータを使ってサンプルの時々刻々の環境とその当時の意思決定のあり方を詳細に再現するかたちでやる必要がある。この点については日本では「ぼちぼちデータの条件がそろってきたかな」という段階だろうか。クロスセクションだと、ちゃんとした効果を測定できるのは年齢と学歴(あとは学卒後の初職?)くらいなものだ。あと、年齢を工夫無しに「重回帰分析」に同時投入するのは避けた方がよい。他の変数とのインタラクションが強いし、センサー(打ち切り)が入り込むので。

ミクロデータを使うことの問題は、政策に活かす提言を直接には引き出しにくい、というところにもある。どういった推計をしてもやはり低学歴女性の方が子どもが多いし、結婚してから無職orパートの女性の方が多く生んでいる(それでも説明できるのは分散の1割に満たないだろうが)。しかしだからといって「ヨシ、女性を低学歴化しよう」という政策は無理だ。学歴に関して言えば、子どもと幸せ(高学歴、そしてそこから得られる利益)がトレードオフになっている。ともかく、現在の制度的環境では、日本では「低学歴か子ども無しかどっちかえらびなさい」となってしまう、というのがミクロデータ分析から引き出される結果である。だから私自身はやはり異なる制度間の比較(国際比較)をするしかない、と思う。ただし制度を操作化した変数を入れた上で。でないと何のために国際比較しているか分からない。(国際比較というのは特定の国を崇拝するためにやるものではなく、「制度レベルの効果を測定するための<手段>」である。)

しかし、である。国際比較をするとき、単にマクロデータを使うというのでは限界がある。理想的には「どういう制度環境のもとでは人は特定の意思決定をしやすいか」ということが知りたいのだから、国際的に実施したアンケートデータ(できればパネル)の個票を使うのがよい。そのうえで、モデルの説明力がある程度強ければ、政策に行かす方向を慎重に考えるべきだろう。

いずれにしろ、「少子化の原因」といったかなり注目度の高い分析を行おうと思っても、一般には必要なデータが公開されてなかったり、そもそも有用なデータがなかったり、といった問題が山積みである。まずは調査制度の改革からこそ始めるべきなのかもしれない。

結論:不完全なデータを使った分析を肴に論争しても「リサーチリテラシー」論議になって(サブスタンシャルな知見への貢献という意味では)不毛なので、ちゃんとしたことがいえるデータが出回るまで待つべし。それまでは研究資源はデータの蓄積と制度設計についての吟味に投入したほうが効率がよい。

ちなみに実際に分析する余裕がないので、余興としてOECD各国の出生率の変化のグラフを掲載しておきます。(Source: OECD Factbook 2006: Economic, Environmental and Social Statistics - ISBN 92-64-03561-3 - (c)OECD 2006 )韓国、メキシコ、トルコ、派手な急降下ぶりです。これだと他の国の変化がよく分からないので、この3つを除いたものも。

制度設計についての整理は次回。(しかしこういうデータを見ていると、無条件に「急速に発展した国では制度の整備が経済成長に追いつけずに問題が生じる。少子化も同じ」と言いたくもなりますね。

TfrbynationOECD加盟各国のTFR変動

Tfrbynation2OECD加盟各国のTFR変動(韓国、メキシコ、トルコ除く)